ルート配送の見直しは「ベテランの頭の中」を表にするところから
- ルート配送とは、決まった配送先を、決まった曜日や時間帯に定期的に回る配送のことです。卸の自社便が地場の小売店・法人・官公庁を回る形は、まさにこれにあたります。
- 2024年4月から、トラック運転者には新しい「改善基準告示」(拘束時間や休息期間の基準)が適用されています。運送会社だけでなく、卸の配達部門で運転を主な仕事にしているドライバーも対象です。ルートの組み方が、そのまま労務管理の問題になりました。
- 効率化の第一歩は、新しいシステムを入れることではありません。配送先・時間指定・物量・ベテランの「暗黙のルール」を1枚の表にすることです。表ができれば、生成AIでルート案のたたき台を作ったり、日報から改善点を拾ったりできます。
※本記事は2026年10月30日時点の公開情報をもとにしています。
こんにちは。AI顧問の山田魁です。
卸の物流の現場で、よく聞く言葉があります。「配送ルートは〇〇さんの頭の中にしかない」。30年近く同じエリアを回ってきたベテランドライバーが、どの店を何時に回り、どこで荷下ろしの順番を変えるかを全部覚えている。その人が休むと、配送が回らなくなる。
この記事では、卸の自社便を前提に、ルート配送の基本、2024年4月から適用されている改善基準告示の要点、現場でよくある失敗、そして生成AIで「頭の中のルート」を外に出す方法を整理します。
ルート配送とは
ルート配送の意味
ルート配送は、決まった配送先を、決まった順番・頻度で回る配送です。たとえば「月・木は市の北部の小売店15軒、火・金は官公庁と学校」というように、曜日ごとに回る先がほぼ固定されています。
これに対して、注文が入るたびに行き先が変わる配送は「スポット配送」と呼ばれます。卸の自社便は、ルート配送を基本にしながら、急ぎの注文をスポットで差し込む形が多いと思います。
固定ルートと変動ルート
ルート配送には、大きく2つの組み方があります。
| 種類 | 中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 固定ルート | 曜日ごとに回る先と順番を決めておく | 配送先と物量が安定している。ドライバーが道や納品先のルールを覚えやすい |
| 変動ルート | その日の注文に合わせて、回る先と順番を毎日組み直す | 注文の有無が日によって大きく違う。物量の波が大きい |
固定ルートは、ドライバーが慣れるので現場は楽です。ただ、注文がない店にも寄る、物量が少ない日でもトラックが半分空のまま走る、といったムダが出やすくなります。
変動ルートはムダが減る一方、毎日ルートを組む手間がかかります。その手間を誰が担っているかが、次の「属人化」の話につながります。
配車の属人化
配車とは、その日にどのトラックに、どの荷物を積み、どの順番で回るかを決める仕事です。
卸の現場では、この配車が特定の人に偏っていることがよくあります。配車担当の課長や、ベテランドライバー本人が、経験で決めている状態です。問題は、そこで使われている判断の多くが、どこにも書かれていないことです。
- 「A店は10時前に着くと、搬入口が開いていない」
- 「B市役所は、正面ではなく裏の通用口から入る」
- 「C店の前の道は、夕方は右折しにくい」
こうした知識は、地図にもシステムにも載っていません。ルート配送の効率化で一番大事なのは、この知識を書き出すことです。
積載率と時間指定
積載率は、トラックに積める量に対して、実際にどれだけ積んでいるかの割合です。卸の多品種・小口配送では、軽いけれどかさばる紙製品や日用品が多く、重さより「容積」で満杯になりがちです。重さだけで積載率を見ると、実態とずれることがあります。
時間指定は、「午前中」「14時〜16時」など、納品時間を指定されることです。時間指定が多いほど、近い店同士でも続けて回れず、行ったり来たりが増えます。官公庁や学校は受付時間が決まっていることが多く、地場の小売店も開店前・品出しの時間に合わせた指定があります。
2024年4月からの改善基準告示
改善基準告示とは
正式には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」といいます。厚生労働大臣の告示で、トラック・バス・タクシー等の運転者について、拘束時間の上限や休息期間などの基準を定めたものです。見直し後の基準が、2024年4月1日から適用されています(厚生労働省:トラック運転者の改善基準告示)。
同じ2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働には「臨時的に超える必要がある場合でも年960時間以内」という上限規制も適用されています(厚生労働省:はたらきかたススメ(トラック))。いわゆる「物流の2024年問題」です。
卸の自社便のドライバーも対象になる
ここは卸の経営者に特に知っていただきたい点です。厚生労働省のQ&Aでは、改善基準告示でいうトラック運転者は「運送事業の会社で働くトラックの運転者に限らず」、運送業以外の事業で、主として人以外を運ぶ自動車の運転業務に従事する人を含むとしています。例として「製造業における配達部門のトラック運転者等についても、運転業務を主とする場合は」該当すると書かれています(厚生労働省:改善基準告示 Q&A)。
つまり、卸の配送部門で、運転が主な仕事になっているドライバーは対象になり得ます。「うちは運送会社ではないから関係ない」とは言えません。自社のドライバーが該当するかどうかは、勤務の実態で判断されますので、迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。
主な基準(トラック運転者)
厚生労働省のポータルサイトで確認できた主な数値です。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 1年の拘束時間 | 3,300時間以内(労使協定により3,400時間まで) |
| 1か月の拘束時間 | 284時間以内(労使協定により年6か月まで310時間。284時間を超える月は連続3か月まで) |
| 1日の拘束時間 | 13時間以内。延長しても最大15時間。14時間を超える回数は週2回までが目安 |
| 休息期間 | 勤務終了後、継続11時間以上を与えるよう努め、継続9時間を下回らない |
| 運転時間 | 2日平均で1日9時間以内、2週平均で1週44時間以内 |
| 連続運転時間 | 4時間以内。運転の中断は1回おおむね10分以上、合計30分以上 |
拘束時間は、始業から終業までの時間で、運転だけでなく荷積み・荷下ろし・待ち時間・休憩も含みます。休息期間は、勤務と勤務の間の、ドライバーが自由に使える時間です。
ほかに、長距離の宿泊を伴う運行の特例や、休息期間の分割の特例などもあります。地場配送が中心の卸では当てはまる場面は少ないと思いますが、詳しくは上記の厚生労働省のページをご確認ください。
ルート配送とのつながり
地場のルート配送は1日の走行距離こそ短いものの、配送先が多く、1軒ごとの荷下ろしや検品待ちが積み重なります。朝の積み込みから始まり、夕方に戻って翌日分の積み込みまでやると、1日の拘束時間は思ったより長くなります。
「ベテランなら回れるルート」が、基準の中で回れるルートとは限りません。ルートを見直すときは、走行時間だけでなく、荷下ろし・待ち時間を含めた拘束時間で考える必要があります。
荷主としての立場から求められることについては、物流効率化法で卸が求められることでも整理しています。
卸の自社便でルート配送が属人化しやすい理由
自社便で地場の小売・官公庁を回る
地方の卸の自社便は、たとえば次のような形が多いと思います。
- 2トン車・軽バンで、地場のドラッグストア、スーパー、ホームセンター、個人商店を回る
- 市役所・学校・病院などに、事務用品・紙・清掃用品を届ける
- 法人の事業所に、業務用消耗品を定期的に納める
配送先は数百件あっても、1日に回るのは1台あたり十数件〜数十件。曜日で回るエリアが決まっていて、ほぼ固定ルートで運用している会社が多い印象です。
ベテランドライバーの頭の中にルートがある
固定ルートを長年続けていると、ルートは「紙に書かれた順番」ではなく「ドライバーの経験」になります。
- 納品先ごとの搬入口、置き場所、受け取りの担当者
- 時間帯ごとの道の混み方
- 「この店は月末だけ量が多い」といった物量のクセ
これがあるから、ベテランは速く正確に回れます。ただ、その人が辞めたり休んだりすると、代わりのドライバーは倍近い時間がかかることもあります。採用が難しい今、ここは経営のリスクです。
急な追加注文が入る
FAXや電話で「今日中に追加で持ってきてほしい」という注文が入るのも、卸の日常です。配車担当が、どのトラックに差し込めるかを頭の中で考え、ドライバーに電話する。この「差し込み」が多い日ほど、ルートは崩れ、帰りが遅くなります。
追加注文を全部断ることはできません。ただ、「何時までの注文なら当日便に乗せる」という締め時間がはっきりしていない会社は、まだ多いと感じます。
季節品で物量が大きく変わる
卸の物量は、季節で大きく動きます。年度末・年度初めの官公庁や学校向けの事務用品、夏の飲料・季節商品、年末の贈答品や大掃除用品などです。
固定ルートのまま物量だけが増えると、1台に積みきれず、2往復したり、臨時便を出したりすることになります。逆に閑散期は、トラックが半分空のまま決まったルートを回ることになります。
物量の波を前もって読むには、出荷実績から季節の傾向をつかむことが役立ちます。中小の卸でもできる需要予測もあわせてご覧ください。
ルートごとに負担が偏る
固定ルートを何年も続けていると、ルートの間で仕事の重さに差がついていきます。配送先の数は同じでも、片方は荷下ろしの少ない事業所ばかり、もう片方は手で棚まで運ぶ小売店や、受付で待たされる官公庁が多い、ということが起きます。
改善基準告示の拘束時間(1日13時間以内、1か月284時間以内など)は、ドライバー一人ひとりに適用されます。会社全体で平均すれば余裕があっても、重いルートを任されたドライバーだけが先に上限に近づきます。「あのルートは〇〇さんしか回れない」という状態は、属人化であると同時に、労務管理の弱点でもあります。
偏りは、ルートごとに次の数字を月単位で並べると見えてきます。
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| 配送件数・ケース数 | 物量の差 |
| 手で運ぶ配送先の数(棚入れ・階段搬入など) | 体の負担の差 |
| 待ち時間の合計(日報から) | 拘束時間が延びる原因 |
| 帰着時刻・1日の拘束時間 | 改善基準告示の上限との距離 |
重いルートから、待ち時間の長い配送先や手荷役の多い配送先を、隣のルートや別の曜日に移すだけでも、偏りは小さくなります。ドライバーの不満や離職の芽を早めにつむことにもつながります。
ルート配送の見直しでよくある4つの失敗と対策
失敗1:いきなり配車システムを入れる
配車システム(配送先と条件を入れると、ルートを自動で組むソフト)は便利です。ただ、配送先の住所や時間指定、搬入条件がきちんとデータになっていないまま入れると、システムが出したルートを現場が「これでは回れない」と言って使わなくなります。
対策:システムを検討する前に、配送先の一覧表を作ります。住所、時間指定、平均物量、搬入口や受け取りの注意点を、1行1配送先で書き出します。これができていれば、どのシステムを選んでも移行がスムーズです。
失敗2:走行距離だけで良し悪しを判断する
ルートを見直して走行距離が減っても、荷下ろしや待ち時間が長い店が後ろにずれて、結局帰りが遅くなることがあります。
対策:配送先ごとに「到着から出発までの時間」を、何日か記録します。日報やドライバーへの聞き取りでかまいません。距離ではなく、1日の拘束時間で比べるようにします。
失敗3:ベテランの知恵を捨ててしまう
効率だけを見てルートを組み替えると、「この店は午前中に行かないと担当者がいない」といった、書かれていないルールを破ってしまいます。取引先からの苦情につながり、結局元に戻すことになります。
対策:見直しの前に、ベテランドライバーにルートを話してもらい、それを書き起こします。1時間ほどの聞き取りで、注意点が数十個出てくることも珍しくありません。新しいルート案は、必ずベテランに見てもらってから試します。
失敗4:配送コストが見えていない
自社便の費用は、人件費・車両費・燃料費などに分かれて計上されていて、「1件届けるのにいくらかかっているか」が見えていない会社が多いです。小口の注文を何度も届けて、実は赤字になっている取引先があるかもしれません。
対策:まずはおおまかでよいので、ルートごと・配送先ごとの費用を出してみます。考え方は横持ち・センターフィー・共同配送|卸の物流コストの正体で詳しく書いています。
配車システムを検討するときに確かめる4点
配送先の一覧表ができ、システムを検討する段階になったら、製品の説明資料の「最大〇%削減」といった数字より先に、自社の条件で使えるかを確かめます。卸の自社便で特に見ておきたいのは次の4点です。
- 卸ならではの制約を登録できるか:時間指定だけでなく、「2トン車は入れない店」「裏の通用口から搬入」「担当者が午前中しかいない」といった配送先ごとの条件を持たせられるか。
- 当日の差し込みに対応できるか:午前中に入った追加注文を、出発後のルートに組み込み直せるか。組み直した結果をドライバーにどう伝えるか。
- 実績が残るか:到着・出発の時刻や待ち時間が記録され、日報の代わりになるか。計画と実績を比べられないと、ルートの見直しが続きません。
- 出荷データの取り込み方:販売管理システムから出荷データをCSVなどで取り込めるか。毎朝の手入力が必要だと、配車担当の負担は減りません。
無料の試用期間がある製品なら、自社の配送先一覧と1週間分の出荷データを入れて、ベテランが組んだルートと並べてみるのが確実です。導入費用に使える補助金の考え方は、卸売業で使えるデジタル化・AI導入補助金2026で整理しています。





