大手の数字より、「どの業務で使ったか」を見る
- 卸売・流通業の生成AI活用は、公表されている事例の多くが「問い合わせ対応」「文書・メール作成」「商品情報の転記」です。受発注や在庫そのものを生成AIで動かした事例は、まだ多くありません。
- 公表されている効果は、総合商社の「年換算10万時間」から、従業員7人の卸の「数十分でできるようになった」まで幅があります。数字の大きさは会社の規模で決まります。中堅の卸が見るべきなのは、数字よりも「どの業務に使ったか」です。
- 中堅の卸がまずまねしやすいのは、①取引先へのメール返信の下書き、②社内規程・マニュアルへの問い合わせ対応、③メーカーの規格書や仕様書の転記、の3つです。どれも、今ある書類とパソコンだけで試せます。
※本記事は2026年10月30日時点の公開情報をもとにしています。各事例は、企業の公式発表・公的機関の資料・報道・導入支援会社が公開した事例ページで確認できた内容だけを載せています。
こんにちは。AI顧問の山田魁です。
「よその卸は生成AIで何をしているのか」。地方の卸売業の社長から、よく聞かれます。ネットの事例記事は多いのですが、元の発表をたどると数字の出どころがわからないものも少なくありません。
この記事では、卸売・流通業(商社・食品卸・医薬品卸・紙卸・機械器具卸など)の事例を、元の資料で確認できたものだけ10件集めました。効果の数字は原典の表現のまま書き、公表されていないものは書いていません。そのうえで業務別(受発注・営業・問い合わせ・在庫・事務)に並べ直し、中堅の卸がまずまねしやすいものを示します。10選とは別枠で、物流会社・倉庫会社が倉庫や配送の業務でAIを使った事例も5件紹介します。
生成AIの基本と、事例を読むときの注意
生成AIとは
生成AI(せいせいエーアイ)は、文章や画像などを新しく作り出すAIです。ChatGPT、Claude、Gemini などが代表です。指示文(プロンプト)を書くと、メールの下書き、要約、表の整理などをしてくれます。
事例を読むときに出てくる言葉を、3つだけ説明します。
| 用語 | 意味 | 卸での例 |
|---|---|---|
| RAG(ラグ) | 社内の規程やマニュアルなどを読ませて、それをもとに答えさせる仕組み | 「この取引先の返品条件は?」に社内資料から答える |
| AIエージェント | 読み取り・変換・登録など、いくつかの作業を続けて自動でこなすAI | 規格書を読んで、決まった様式に書き写す |
| AI-OCR(エーアイ・オーシーアール) | 紙やFAXの文字を読み取ってデータにする技術。生成AIとは別物として扱われることが多い | FAX注文書の文字を読み取る |
この記事では、発表の中で「生成AI」「ChatGPT」「LLM(大規模言語モデル)」などと明記されている事例だけを取り上げます。AI-OCRや需要予測のAIは、生成AIとは別の技術なので対象外にしました。
日本企業の生成AI利用の状況
総務省の『令和8年版 情報通信白書』によると、生成AIの活用方針の設問で「わからない」と答えた企業を除くと、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた割合は、日本で86.4%でした。業務ごとに見ると、「議事録・メール作成補助」が約7割で最も高く、次に「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割でした。導入効果を実感していると答えた割合も、「議事録・メール作成補助」が約7割と、ほかの業務より目立って高い結果です(総務省 令和8年版 情報通信白書)。
卸の事例も、この傾向とほぼ同じです。メールや文書、社内の問い合わせから始めた会社が多く、効果も出ています。
事例を読むときの注意
数字には「試算」「見込み」のものもあるので、原典の書き方のまま載せます。導入支援会社の事例ページは取引先へのインタビューに基づくものですが、第三者が確かめた数字ではないため、「導入支援会社の公開事例」と明記します。
卸売業の生成AI活用事例10選
まず、10件を一覧にします。そのあと業務別に詳しく見ていきます。
| No. | 会社名 | 業種 | 使った業務 | 業務の分類 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 国分グループ本社(国分西日本) | 食品・酒類卸 | 食品規格書の転記・形式変換、全社員の生成AI利用 | 受発注・商品情報 |
| 2 | 日本アクセス | 食品卸 | 自社開発のLLM基盤でカテゴリ分析 | 営業 |
| 3 | 伊藤忠商事 | 総合商社 | 社内の生成AI基盤、投資申請書のチェック、商材提案の支援 | 営業・事務 |
| 4 | 社名非公表(東京都文京区) | スポーツ衣料卸(従業員7人) | Web広告の文言、英語のSNS投稿、経営計画書 | 営業 |
| 5 | ミスミグループ本社 | 機械部品などの販売(メーカー兼商社) | ECサイトの問い合わせ対応 | 問い合わせ(社外) |
| 6 | アルフレッサ | 医薬品卸 | 社内規程・マニュアルへの問い合わせ対応 | 問い合わせ(社内) |
| 7 | 横山商会 | 機械器具卸(石川県) | 顧客メールの下書き、回覧文書、研修資料 | 問い合わせ・事務 |
| 8 | 丸紅 | 総合商社 | 社内向けチャットボット | 事務 |
| 9 | 住友商事 | 総合商社 | Microsoft 365 Copilot の全社利用 | 事務 |
| 10 | 日本紙パルプ商事 | 紙・板紙の卸 | 自社専用のChatGPT環境で企画・文書作成 | 事務 |
業務別に見る10事例
受発注・商品情報:メーカーの書類を「書き写す」仕事
1. 国分グループ本社(食品・酒類卸)
- 何に使ったか: 国分グループ本社は2026年6月、AIエージェントを使った食品規格書作成システム「Graffer Databridge」を国分西日本に導入したと発表しました。各社が作った食品規格書や商品仕様書から必要な情報を抜き出し、決まった様式やデータに自動で変換します。日本加工食品卸協会の商品情報システムへの入力にも使い、手入力のミスを減らすねらいです(流通ニュース 2026年6月2日)。提供元のグラファーは、このサービスについて「生成AIが取引先である小売企業指定の食品規格書(PDF)や、社内システム用のCSVなど、任意のフォーマットへボタンひとつで即時変換・出力します」と説明しています(グラファーの発表 2025年11月19日)。
- その前の取り組み: 国分グループは、生成AIの業務用ツール「Graffer AI Studio」を、新入社員を含む全社員4,500人が使える環境にしています。それ以前には、ChatGPTのAPIを使った自社ツール「KOKUBU-GAI」も作っていました(グラファーの発表 2024年6月25日)。
- 公表されている効果: 数値は公表されていません。
卸の現場では、メーカーの規格書やカタログを、自社の商品マスタや小売の指定様式に書き写す仕事が毎日あります。新商品の多い時期は、担当者がこれにかかりきりになります。国分の事例は、この「書き写し」を生成AIに任せたものです。日用品・紙・業務用品の卸にも同じ仕事があります。
営業:提案書・分析・販促文を作る
2. 日本アクセス(食品卸)
- 何に使ったか: 日本アクセスは2024年に「日本アクセスAIプラットフォーム」を作りました。AI棚割り、プライシングAI、在庫マネジメントAIに加えて、自社開発の「流通業界特化型LLM基盤」があります。LLM基盤では、各種データを学習させた独自のLLMで、生活者の気づき(インサイト)の発掘やカテゴリ分析を行い、意思決定の回数と質の向上に役立てるとしています(日本アクセス 公式資料(第9次中期経営計画の紹介冊子) 18ページ)。
- 公表されている効果: LLM基盤についての数値は公表されていません。
3. 伊藤忠商事(総合商社)
- 何に使ったか: 伊藤忠商事は、社内の生成AI基盤「I-Colleague」で、翻訳・要約・議事録作成などを全社員に提供しています。社内のイントラネットとつないで、自社データに基づいて答える仕組みもあります。事業投資の相談相手になる機能や、稟議書(投資申請書)に論点の漏れがないかを確かめる機能もあります。顧客への商材提案を支援する機能の開発・展開も進めていると紹介されています(日本マイクロソフト 導入事例 2026年7月)。
- 公表されている効果: グループで「26,000 人以上」が利用し、年間で「227 万時間以上」の削減効果があるとされています(同上)。日経クロステックも、同社の説明として約2万6000人の利用と年227万時間以上の削減を報じています(日経クロステック 2025年10月17日)。
4. スポーツ衣料の卸(東京都文京区、従業員7人、社名非公表)
- 何に使ったか: 2022年11月ごろから社長が旗振り役になり、会社全体で使い始めました。Web広告のキーワード文の作成、米国市場向けSNSの英文のたたき台づくり、経営計画書のアイデア出しや抜け漏れチェックに使っています(東京商工会議所「中小企業のための『生成AI』活用入門ガイド」第3版 中小企業の活用事例)。
- 公表されている効果: ウェブ広告の業務では、「今まで外注や社員に頼んで時間を掛けて行っていたものが、数十分という短時間で実施できるようになり、費用節減・生産性向上につながった」とされています(同上)。
地方の卸では、新商品の案内文や季節品(お中元・お歳暮、年度末の官公庁向けなど)の提案書を、営業担当が夜に作っていることがよくあります。専用のLLMは要りません。スポーツ衣料の卸のように「たたき台」を作らせるだけでも、夜の時間は減らせます。
問い合わせ:社外からも社内からも、同じ質問が繰り返される
5. ミスミグループ本社(機械部品などの販売)
- 何に使ったか: ECサイト「MISUMI」の問い合わせ対応に、生成AIのチャットボットを入れました。商品の仕様確認や選定の相談に答える「技術サポート」(2024年11月に導入)と、注文後のキャンセル・変更・返品ができるかを判断する「カスタマーサービス」(2025年8月26日に本格導入)の2つです。取り扱いは他社ブランドを含めて3000万点以上、技術サポートへの問い合わせは国内で年約10万件です(ミスミグループ本社の発表 2025年8月26日)。
- 公表されている効果: 技術サポートは「平均回答スピード40秒(98%削減)」で、従来は平均1時間かかっていました。カスタマーサービスは「平均回答スピード10秒(97%削減)」で、従来は平均321秒でした(同上)。
6. アルフレッサ(医薬品卸)
- 何に使ったか: Azure OpenAI Service の上に、独自のAIアシスタント「Owl-One」を作りました。社内規程や業務マニュアル(PDF・Excel・Wordなど)とつないで、人事の手続きなど社内の問い合わせに答えます。文書の校正や、営業担当の商談準備にも使われています。2024年8月時点で、対象約4,300人のうち約2,300人が利用しています(ソフトバンク 導入事例 2024年10月、導入支援会社の公開事例)。
- 公表されている効果: もともと社内の問い合わせ対応に年間約35,000時間かかっていたところ、「年間約1,550時間の問い合わせ対応業務を削減」、品質向上効果と合わせて「年間約6,000時間」の生産性向上とされています。導入から日が浅いため、1,550時間は試算、6,000時間は見込みの数字です(同上)。
7. 横山商会(機械器具卸、石川県金沢市、従業員100〜299人)
- 何に使ったか: 社内に散らばった過去の記録の検索・要約、規程を改めたときの回覧文書の作成、営業支援での複雑な顧客メールの返信の下書きに使っています。情報セキュリティ規程の研修では、NotebookLM(グーグルの資料要約ツール)で説明動画や理解度テストを作っています(デジライズ 導入事例 2026年1月29日掲載、導入支援会社の公開事例)。
- 公表されている効果: 情報検索から回覧文書の作成までの工数が以前より70%削減、複雑な顧客メールの作成時間が4分の1になったとされています(同上)。
卸の受注センターには「在庫は?」「納期は?」「返品できる?」という同じ質問が、電話・FAX・メールで毎日届きます。社内でも「この取引先の締め日は?」と、ベテランに質問が集まります。
ミスミのように社外の質問にAIが直接答えるには、商品データが整っている必要があり、中堅の卸にはまだ重い投資です。まずまねしやすいのは、アルフレッサや横山商会のような「社内向け」と「返信の下書き」です。取引先に出す前に人が確かめられるので、間違いのリスクを抑えられます。
在庫:生成AIの公表事例はまだ少ない
在庫の分野では、需要予測や発注量の計算に使うAIの事例はありますが、生成AIで在庫を管理していると明記した卸の事例は、今回の調査では確認できませんでした。日本アクセスのAIプラットフォームでも、「在庫マネジメントAI」と「流通業界特化型LLM基盤」は別の機能として並んでいます(日本アクセス 公式資料 18ページ)。
生成AIは、在庫の数を予測する道具というより、在庫表を読んで「動いていない商品の一覧と理由の候補」を文章にまとめる道具として使うのが現実的です。エクセルの在庫データと生成AIの組み合わせ方は、中小の卸でもできる需要予測や在庫管理をエクセルから卒業する前にやることで詳しく書いています。
事務:メール・会議・文書の「全社の底上げ」
8. 丸紅(総合商社)
- 何に使ったか: 2023年4月に、社内向けの生成AIチャットボットを開発しました。用途ごとのアプリを足しながら、国内外の拠点とグループ会社に広げています(丸紅の発表 2024年4月9日)。
- 公表されている効果: 「年換算10万時間の業務削減を実現」とされています(同上)。2026年4月のAWSのブログでは、利用者は1万人以上、対象業務での業務時間は「25〜65% 削減」と紹介されています(AWS ブログ 2026年4月10日)。
9. 住友商事(総合商社)
- 何に使ったか: 2024年4月に、海外のグループ会社を含む約9,000人で Microsoft 365 Copilot の利用を始めました。メールや会議の要約、アイデア出しのほか、契約書の比較や条文の抜き出し、業界紙の要約、出張・商談メモの共有と検索などにも使っています(住友商事 公式サイト 2025年11月4日)。
- 公表されている効果: 「業務時間の削減効果は1カ月あたり約1万時間」(2024年12月時点)、「コスト削減効果は年間約12億円」とされています。いずれも、1回あたりの削減時間をアンケートで調べ、利用回数と人件費を掛けて出した試算です(同上)。
10. 日本紙パルプ商事(紙・板紙の卸)
- 何に使ったか: 社内の情報が外に漏れるのを防ぐため、自社専用のChatGPT環境を作り、企画業務や文書作成を支える道具として導入しています。生成AIの限界や特性を理解したうえで使うことを前提にしています(日本紙パルプ商事 公式サイト「デジタル化」)。
- 公表されている効果: 数値は公表されていません。
総合商社の削減時間は、数千〜数万人の積み重ねです。100人規模の卸で同じ桁は出ません。ただ、日本紙パルプ商事のように「情報が外に出ない環境を先に用意する」順番は、規模に関係なくまねできます。
中堅の卸がまずまねしやすいもの
10件を、中堅の卸(従業員50〜200人)が明日から試せるかどうかで並べ直すと、次のようになります。
| まねしやすさ | 業務 | 参考にする事例 | 必要なもの |
|---|---|---|---|
| すぐできる | 取引先へのメール返信の下書き | 横山商会 | 法人向けの生成AIサービス、過去のメール数件 |
| すぐできる | 案内文・提案書・販促文のたたき台 | スポーツ衣料の卸 | 法人向けの生成AIサービス |
| 1〜2か月 | 社内規程・マニュアルへの問い合わせ対応 | アルフレッサ、横山商会 | 規程・マニュアルのデータ、社内向けの環境 |
| 1〜2か月 | メーカーの規格書・仕様書の転記 | 国分グループ | 規格書のPDF、自社の商品マスタの様式 |
| 準備が要る | 社外向けの問い合わせ自動応答 | ミスミ | 整った商品データ、在庫・納期のシステム連携 |
最初の一歩は、上の2行のどちらかです。下の3行のように仕組みに投資する段階では、デジタル化・AI導入補助金2026も確認しておくとよいでしょう。手順書づくりのように、写真や過去の書類から文書を作る使い方は、倉庫の作業手順書の作り方でも紹介しています。
物流のAI活用事例:倉庫・配送で生成AIを使った例
ここまでの10選は、卸売・流通業の会社の事例でした。ここからは10選とは別枠で、物流会社・倉庫会社が倉庫や配送の業務でAIを使った事例を5件紹介します。卸の自社倉庫や物流子会社の仕事に近い事例です。10選と区別するため、番号はA〜Eにしています。
載せたのは、企業の公式発表と国土交通省の事例集で確認できたものだけです。倉庫の設備・機械の導入事例は除きました。また、10選は生成AIに絞りましたが、ここでは倉庫で使われているAI-OCRや需要予測のAIも含めています。どれが生成AIかは表に書きます。
| No. | 会社名 | 使った業務 | AIの種類 | 確認した資料 |
|---|---|---|---|---|
| A | 三井倉庫ホールディングス | バーコードの無い商品の出荷検品 | 生成AI | 公式発表(2026年7月) |
| B | 住友倉庫 | 入庫・出庫の検品 | AI-OCR | 国土交通省の取組事例集 |
| C | 日本通運 | 荷主向けの物流データ分析 | 生成AI | 公式発表(2026年8月) |
| D | 安田倉庫 | 全社の業務(営業の提案書など)、AIエージェントの試験 | 生成AI | 公式発表(2026年10月) |
| E | アスクル | 物流センターと補充倉庫の間の横持ち計画 | 需要予測のAI | 公式発表(2023年11月) |
A. 三井倉庫ホールディングス(倉庫・物流)
- 何に使ったか: 三井倉庫ホールディングスと三井倉庫ビジネスパートナーズは2026年7月、受託している出荷検品の業務に「生成AI出荷検品アプリ」を入れたと発表しました。対象は、バーコードが付いていない商品の出荷検品です。これまでは熟練した作業者の目視に頼っていました。スマートフォンで出荷リストと商品を撮影すると、生成AIがその場で合っているかどうかを判定します。事前に商品マスタを設定したり、出荷オーダーを取り込んだりする必要はなく、出荷リストと現物で表記や略称が違っていても判断できるとしています(三井倉庫ホールディングスの発表 2026年7月27日)。
- 公表されている効果: 数値は公表されていません。「従来2名体制で行っていた検品作業を、本アプリを活用した1名体制に置き換える」ことで、ダブルチェックの工数を減らすとしています(同上)。
B. 住友倉庫(倉庫・物流)
- 何に使ったか: 国土交通省の「物流施設におけるDX推進実証事業」の取組事例集(令和7年度実施事業)に載っている事例です。検品を担当者1人で行う体制で、繁忙期には月約15,000箱、1日6〜7時間の検品がありました。ノウハウが要るため、急に人を増やすこともできませんでした。そこで、スマートフォンで撮った写真から文字を自動で読み取るAI-OCRの検品システムを作り、いろいろな検品に合わせて設定を変えられるようにしました(国土交通省 取組事例集 20ページ)。
- 公表されている効果: 検品の作業員を1名増やし、作業時間は「1名体制19時間から、2名体制11時間へ」。ノウハウのない作業者でも、誤出荷を見つける精度が上がったとされています(同上)。
C. 日本通運(物流)
- 何に使ったか: 日本通運は2026年8月、荷主向けの物流Webアプリ「DCX」のデータ分析オプションに、生成AIと対話できる機能「BI LLM Chat」を加えました。DCXにたまった荷主ごとの物流データと、インターネット上の外部情報を合わせて、チャットに質問を書くと分析結果を返します。例として「特定地域の最新のマーケット状況を踏まえ、過去の出荷実績を参照しつつ、現在の在庫で納期を維持できるか?」という質問が挙げられています。外部から隔離された環境で動き、入力したデータや対話の内容が外部のAIの学習に使われることはないと説明しています(NIPPON EXPRESSホールディングスの発表 2026年8月19日)。
- 公表されている効果: 数値は公表されていません。「従来、数日を要していたレポート作成や要因分析の工数を大幅に削減」することをねらいとしています(同上)。
D. 安田倉庫(倉庫・物流)
- 何に使ったか: 2025年10月から2026年1月にかけて本社と各営業所を回り、348人を対象に計57回、部門の業務に合わせた実演形式の研修をしました。営業向けには、提案書の作成や顧客情報の整理での使い方を紹介しています。新入社員研修にも、生成AIの基礎・リスク・社内の利用ガイドラインの講習を加えました。2026年8月からは約100人で、AIエージェントの試験利用を始めています(安田倉庫の発表 2026年10月26日、PR TIMES)。
- 公表されている効果: 生成AIの利用者率は2026年6月時点で34.6%となり、2027年度の目標20%を前倒しで達成したとしています。利用者率は「営業日に1日1回以上使った従業員」を数えた年間の延べ人数を、延べ従業員数で割ったものです。業務時間の削減の数値は公表されていません(同上)。
E. アスクル(オフィス用品などの通販、自社で物流センターを運営)
- 何に使ったか: 物流センターと近くの補充倉庫の間で商品を移す「横持ち」の計画に、AIの需要予測モデルを入れました。それまでは、担当者が経験をもとに手作業で計画を立てていました。今は「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶべきか」をAIが指示します(アスクルの発表 2023年11月29日)。
- 公表されている効果: ALP横浜センターで、1日あたりの横持ち指示の作成工数が約75%減、入出荷作業が約30%減、フォークリフト作業が約15%減とされています(同上)。
5件のうち、地方の卸の倉庫にいちばん近いのはAとBの「検品」です。卸の倉庫にも、バーコードの無い商品や、取引先ごとに書き方の違う出荷リストがあり、ベテランの目視に頼っている場面は少なくありません。Aのように生成AIで現物とリストを照らし合わせる仕組みは、まだ導入が始まったばかりです。まずは誤出荷を記録して、どの商品・どの場面で間違いが起きているかを押さえておくと、こうした仕組みを入れるかどうかを判断しやすくなります。記録の取り方はピッキングとは?誤出荷を減らす方法で紹介しています。
Eの横持ちは、本社倉庫と外部倉庫・営業所倉庫の間で在庫を移している卸にも同じ仕事があります。Cのような荷主向けの分析は、物流子会社が親会社に月次の報告を出すときの参考になります。Dの安田倉庫は、ツールを配る前に現場を回って研修を重ねています。これは、後で述べる「全員に配って終わる」失敗を避ける進め方です。
卸の生成AI導入でよくある4つの失敗と対策
失敗1:大手の数字を目標にしてしまう
「丸紅は10万時間」と聞いて、同じような数字を社内の目標にすると、だいたい失望します。対策は、1つの業務に絞り、その業務の今の時間を先に測ることです。「メール返信に1日何分かかっているか」を1週間記録してから始めれば、効果を自社の数字で説明できます。
失敗2:全員に配って終わる
アカウントを配っても、使い方がわからないと誰も開きません。国分グループも、まず特定の部署で使い方を作ってから全社に広げています。対策は、最初の1〜2か月は、使う人と業務を決めて、使い方の見本(プロンプト)を共有することです。
失敗3:取引先の情報を、そのまま無料版に入れてしまう
取引先名や単価、担当者の連絡先を、個人の無料アカウントに貼り付けてしまう例は少なくありません。日本紙パルプ商事が自社専用の環境を先に作ったのは、この危険を避けるためです。対策は、法人向けのプランを使い、入力したデータがAIの学習に使われない設定になっているかを確かめることです。社内ルールも1枚にまとめておきます。
失敗4:AIの答えを確かめずに取引先へ出す
生成AIは、もっともらしい間違いを書くことがあります。卸の場合、納期・単価・在庫数の間違いは、そのまま信用の問題になります。対策は、取引先に出す文書は必ず人が読んでから送ることです。数字は基幹システムや在庫表で確かめます。





