需要予測は「当てる技術」ではなく「外れ方を管理する仕組み」
- 需要予測とは、過去の出荷実績などから「この先どれだけ出るか」の見込みを数字にすることです。 発注量や在庫の持ち方、人の手配を決める土台になります。
- 中小の卸なら、エクセルで十分に始められます。 移動平均・前年同月比・季節指数の3つと、エクセルの FORECAST.ETS 関数(予測を計算する関数)で、まず主要品目の月次予測をつくれます。
- 卸の予測を外す原因の多くは「数字の外」にあります。 盆暮れ、特売、新商品、得意先の棚替え、天候です。営業が持っている情報を予測に足し、外れる前提で人が補正する運用が、高価なシステムより先に効きます。
※本記事は2026年10月30日時点の公開情報をもとにしています。エクセルの機能は Microsoft の公式サポートページで確認できたものに限って紹介します。
中小の卸でも使える需要予測の基本
需要予測とは何か
需要予測は、将来の需要(お客様が欲しがる量)を見積もることです。卸の現場では、ほぼ「出荷予測」と同じ意味で使われます。
ただし、厳密には「出荷実績=需要」ではありません。欠品していた月は、本当はもっと出たはずです。受注を断った分、代替品で出した分は実績に表れません。この点は後の「よくある失敗」で触れます。
予測を使う場面は主に3つです。
| 使う場面 | 予測から決めること |
|---|---|
| 発注・仕入 | いつ、どれだけ仕入先に発注するか |
| 在庫 | どの品目をどれだけ持つか、どこに置くか |
| 人・車 | 繁忙期の出荷人員、パート手配、配送便の増便 |
多くの卸では、これをベテランの担当者が頭の中でやっています。「去年の今ごろはこれくらい出た」「あの店は盆前に必ず増える」という感覚です。この感覚は正しいことが多いのですが、その人が休むと止まり、引き継げません。需要予測を数字にする一番の意味は、ここにあります。
基本の手法1:移動平均
移動平均は、直近の数か月の平均を「来月の予測」とする方法です。たとえば直近3か月の出荷が 100・120・110 ケースなら、来月の予測は 110 ケースです。
エクセルでは AVERAGE 関数で計算できます。B列に月別の出荷数が並んでいれば、=AVERAGE(B2:B4) を下にコピーするだけです。
- 長所:簡単で、誰でも検算できる
- 短所:季節の山や谷に遅れてついていく。盆暮れの山を前もって読むことはできない
季節性の小さい定番品(事務用品の消耗品、業務用洗剤の定番サイズなど)には、これで足りる場合があります。
基本の手法2:前年同月比
前年同月比は、「去年の同じ月の実績 × 最近の伸び率」で予測する方法です。
例:去年12月の出荷が 500 ケース。今年の直近3か月は、去年の同じ3か月に比べて 1.1 倍。なら今年12月の予測は 500 × 1.1 = 550 ケースです。
卸の担当者が感覚でやっていることに一番近い方法です。季節の山を自然に織り込めるので、盆暮れのある品目に向いています。
注意点は、去年の同じ月に特売や欠品があった場合です。その月の数字がゆがんでいると、予測もそのままゆがみます。
基本の手法3:季節指数
季節指数は、「その月が年平均の何倍出るか」を表す数字です。
- 過去2〜3年分の月別出荷を並べる
- 各年の月平均を出す
- 各月の出荷 ÷ その年の月平均 を計算する
- 同じ月の値を年ごとに平均する(例:12月は 1.6 倍、2月は 0.7 倍)
予測は「ならした月平均 × その月の季節指数」で出します。前年同月比と違い、1年分の特殊な事情に引っぱられにくいのが利点です。贈答品、季節の飲料、暖房関連品、年度末に動く官公庁向けの事務用品など、季節の形がはっきりした品目に向きます。
エクセルの FORECAST.ETS 関数と予測シート
手計算の3手法に加えて、エクセルには予測専用の関数があります。Microsoft の公式ページで確認できた内容を整理します。
FORECAST.ETS 関数は、指数三重平滑化(ETS)というアルゴリズムの AAA バージョンを使い、過去の値から将来の値を予測する関数です。指数平滑化は、ざっくり言えば「新しいデータほど重く見る平均」です。「三重」は、水準・傾向・季節性の3つを同時に扱う、という意味です。
構文は次のとおりです。
=FORECAST.ETS(目標期日, 値, タイムライン, [季節性], [データ補完], [集計])
| 引数 | 内容(公式ページより) |
|---|---|
| 目標期日 | 予測したい時点。履歴の最後より前を指定するとエラー |
| 値 | 過去の出荷数など |
| タイムライン | 一定の間隔で並んだ日付(月次なら毎月1日など) |
| 季節性 | 既定の 1 は自動検出。0 は季節性なし。12 と入れれば12か月周期として扱う |
| データ補完 | 既定の 1 は欠けた値を隣の値の平均で補う。0 は欠けた値を 0 とみなす。欠損は30%まで |
| 集計 | 同じ日付に値が複数あるときのまとめ方。既定は平均。合計(SUM)なども選べる |
関連する関数もあります。
- FORECAST.ETS.SEASONALITY:エクセルが検出した季節の周期の長さを返します。「この品目は12か月周期の季節性がある」と確かめるのに使えます。
- FORECAST.ETS.CONFINT:予測値の信頼区間(予測のぶれ幅)を返します。
- FORECAST.ETS.STAT:モデルの統計値を返します。MASE、SMAPE、MAE、RMSE といった精度の指標も取り出せます。
注意点として、公式ページには「FORECAST.ETS 関数は、Excel for the web、iOS、または Android では使用できません」とあります。対応として挙げられているのは Excel for Microsoft 365、Excel 2024、2021、2019、2016 です。ブラウザ版で共有しているブックでは動かないので、社内の環境を先に確認してください。
予測シートは、この関数を画面操作で使える機能です。日付列と値の列を選び、[データ]タブの[予測]グループにある[予測シート]を押すと、予測値と信頼区間の入った表とグラフが新しいシートにできます。オプションで、予測の開始時点を履歴の途中にずらせます。公式ページでは、これが過去の期間で精度を確かめるのに役立つと説明されています。ページの対象として挙がっているのは Excel for Microsoft 365、2024、2021 です。
加重移動平均と回帰分析の使いどころ
3つの手法とFORECAST.ETSのほかに、よく名前が挙がる手法が2つあります。卸で使う場面を絞って説明します。
加重移動平均は、移動平均のうち、新しい月ほど重く見る方法です。たとえば直近3か月が古い順に 100・120・110 ケースで、重みを古い順に 1・2・3 とすると、予測は(100×1+120×2+110×3)÷6 ≒ 112 ケースです。エクセルでは =SUMPRODUCT(B2:B4,{1;2;3})/6 のように計算できます。取扱いを始めて間もない得意先が伸びている品目など、最近の動きを早く反映させたい場合に向きます。重みの付け方で結果が変わるので、後で説明する誤差の確認で、普通の移動平均と比べてから使います。
回帰分析は、出荷数と別の数字との関係を直線で表して予測する方法です。エクセルには、既知のxとyの値から線形回帰で将来の値を予測する FORECAST.LINEAR 関数があります(Excel 2016 で FORECAST 関数から置き換えられ、使い方は同じです)。構文は =FORECAST.LINEAR(x, 既知のy, 既知のx) です。
卸で使うときの注意は一つです。xには、先の値が前もってわかる数字を選ぶこと。たとえば「得意先チェーンの店舗数」と「月間の出荷ケース数」の関係を出しておけば、来期の出店計画から出荷を見積もれます。一方、気温を使うと、来月の気温そのものを当てなければならず、予測の役に立ちにくくなります。
予測の精度の測り方
予測は必ず外れます。大事なのは「どれくらい外れるか」を数字で持っておくことです。中小の卸なら、次の3つで十分です。
| 指標 | 計算 | 読み方 |
|---|---|---|
| 平均絶対誤差(MAE) | 毎月の「実績−予測」の絶対値の平均 | 「平均で何ケース外れるか」。発注担当に一番伝わる |
| 誤差率 | 「実績−予測」の絶対値の合計 ÷ 実績の合計 | 品目どうしを比べるときに使う |
| かたより(バイアス) | 「実績−予測」の合計(符号つき) | プラスが続けば予測が低すぎ(欠品しやすい)、マイナスが続けば高すぎ(在庫が余る) |
やり方は簡単です。過去12か月を「答えを隠したテスト」に使います。たとえば去年の4月までのデータで5月を予測し、実際の5月と比べる。これを12か月分くり返して誤差を出します。予測シートの「予測開始」をずらす機能は、この確認に使えます。
一つだけ覚えておいてほしいのは、誤差率を品目ごとに見ると、少量品ほど大きく出ることです。月に2〜3個しか出ない品目は、1個ずれただけで誤差率が数十%になります。こうした品目は予測の精度を追うより、発注点(後述)で管理するほうが現実的です。
予測を発注に使う流れ
予測は、それだけでは何も変えません。発注に落ちて初めて意味を持ちます。流れは次のとおりです。
- 月次(または週次)の予測を出す:品目ごと、必要なら得意先グループごと
- リードタイム分の需要を見る:発注してから入荷するまでの期間に、どれだけ出るか
- 安全在庫を足す:予測の誤差(上のMAEなど)に応じて、ぶれに備える在庫を持つ
- 発注点・発注量を決める:在庫がこの量を下回ったら、これだけ発注する
3と4の決め方は、欠品と過剰在庫を同時に減らす発注点の決め方で詳しく書いています。需要予測の記事と対になる内容なので、あわせて読んでいただくと流れがつながります。
卸の出荷データで予測が外れる7つの事情
教科書の手法は、きれいなデータを前提にしています。卸の出荷データは、きれいではありません。現場でよく出会う7つの事情と、その扱い方を整理します。
季節品:盆暮れと年度末
贈答品、季節の食品、飲料、暖房・冷房関連品は、年に1〜2回の山で売上の大半が決まります。移動平均では山に間に合いません。前年同月比か季節指数を使い、山の2〜3か月前から予測を見るのが基本です。
官公庁や学校向けの事務用品・業務用品は、年度末と年度初めに動きます。これも季節性として扱えます。ただし予算の執行時期は年によって変わるので、営業が先方から聞いた情報を足すことが欠かせません。
特売:実績のゆがみの最大の原因
地場のスーパーやドラッグストアの特売は、出荷を一時的に2倍、3倍に押し上げます。そして翌月は反動で落ちます。
困るのは、この特売の山を「需要」として予測に入れてしまうことです。去年の6月に特売があれば、前年同月比の予測は今年の6月も高く出ます。今年は特売がなければ、在庫が余ります。
対策は、出荷データに「特売フラグ」を付けることです。特売のあった月に印を付け、予測のもとになる数字からは特売分を除いた「平常値」を使います。今年の特売予定は、別に足します。
新商品:過去データがない
新商品には過去の実績がありません。よく使うのは「似た商品の立ち上がりを借りる」方法です。同じメーカーの前の新商品、同じカテゴリの定番品の最初の3か月の動きを参考にします。最初の1〜2か月は予測より、短い間隔で実績を見て補正するほうが大事です。
得意先の棚替え:数字の外で起きる急変
小売の棚替え(売場の商品の入れ替え)で、ある商品がカットされる、あるいは新しく採用される。これは予測モデルには絶対に読めません。情報を持っているのは営業だけです。
卸の需要予測で、ここがいちばん大きな差になります。棚替えの情報が発注担当に届くかどうかで、カット品の在庫が何か月も残るか、すぐ止められるかが決まります。
天候:読めないが、幅は持てる
猛暑、冷夏、長雨、暖冬は、飲料、季節食品、日用品の一部に大きく効きます。天候そのものを当てるのは卸の仕事ではありません。現実的なのは、天候で動く品目をあらかじめ決めておき、その品目だけ安全在庫を厚くするか、発注のサイクルを短くすることです。
欠品月とFAX受注:実績そのものの問題
欠品していた月は、出荷実績が本来の需要より少なく記録されます。また、FAXや電話で受けた注文を担当者が手入力していると、品目コードの誤りや、代替品での出荷が実績に混ざります。
予測を始める前に、少なくとも次は確認しておきたいところです。
- 欠品していた月がわかるか(わかれば、その月は予測のもとから外すか補う)
- 代替品で出した分が、元の品目の需要として追えるか
- 返品が出荷実績から差し引かれているか
在庫データそのものの整え方は、在庫管理をエクセルから卒業する前にやることでも触れています。
得意先の自動発注:発注の形が途中で変わる
卸の予測のもとになるのは、得意先から届く発注です。その発注の仕方が、途中で変わることがあります。
農林水産省の「令和5年度食品等流通調査に関する報告書」(令和6年5月)では、小売事業者では自動発注システムの導入が進み、AI需要予測システムの活用も増加傾向にあるとされています。ロス率の低下や発注作業の負担軽減を評価する声がある一方、まだ精度が十分に確立していないとの声も聞かれた、とあります。同じ報告書では、食品製造事業者・食品卸事業者の側は、オンライン受注が進んでいる者と、FAXによる受注が大半を占める者とに二分される傾向があったとしています(同報告書)。
得意先が店長の手発注から自動発注に切り替えると、1回あたりの量や発注の頻度が変わることがあります。切り替え前の実績をそのまま使うと、予測がずれる原因になります。卸の側でできることは次のとおりです。
- 得意先が発注の方法を変えた時期を、営業から聞いて記録しておく
- 切り替えの前後で、発注の回数と1回あたりの量を比べる
- 形が変わっていれば、切り替え後のデータが数か月たまるまでは、予測よりも実績を短い間隔で見て補正する
需要予測でよくある6つの失敗と対策
失敗1:全品目を一度に予測しようとする
数千〜数万の品目を一度に予測しようとして、データ整理だけで止まる。よくあるパターンです。
対策:ABC分析(出荷金額の大きい順に並べ、上位から A・B・C に分けること)で、上位の品目から始めます。出荷金額の大半は一部の品目が占めることが多いので、まずそこだけ予測を回します。C品目は発注点で管理すれば十分です。
失敗2:特売や欠品のゆがみをそのまま使う
前の章で書いたとおりです。ゆがんだ実績からは、ゆがんだ予測しか出ません。
対策:特売フラグ・欠品フラグの列を1本足すだけで、だいぶ違います。完璧に付けなくても、大きな山と谷の理由がわかれば十分です。
失敗3:予測を出して終わる
予測表をつくっても、発注担当が見ずにいつもの感覚で発注している。これもよくあります。
対策:予測を発注表の横に置き、「予測と違う量を発注するときは理由を一言書く」ルールにします。理由がたまると、どの品目で予測が弱いかが見えてきます。
失敗4:精度を測らない
「なんとなく合っている気がする」で運用を続けると、予測が良くなっているのか悪くなっているのかわかりません。
対策:月に1回、主要品目の誤差とかたよりを表にして見ます。会議で全員が見る必要はありません。発注の責任者が見ていれば十分です。
失敗5:営業の情報が入ってこない
特売、棚替え、得意先の新店・閉店。予測を一番大きく動かす情報は、営業の頭や手帳の中にあります。
対策:営業が週に1回、決まった様式で「来月以降に効きそうな情報」を書く場所をつくります。共有のエクセルの1シートで十分です。書く項目は「得意先(社内コード)・品目・時期・増減の見込み・確度」くらいに絞ります。
失敗6:システムを入れれば解決すると考える
需要予測の機能を持つシステムはたくさんあります。ただ、上の失敗2〜5が解決していないと、高いシステムを入れても同じところでつまずきます。
対策:まずエクセルで主要品目の予測を3〜6か月回してみることです。どこに手間がかかり、どこで外れるかがわかってからでも、システムの検討は遅くありません。





