棚卸は「当日の頑張り」ではなく「前日までの準備」と「差異の原因分析」で短くなる
- 棚卸は、倉庫にある在庫を実際に数えて、帳簿(システムやエクセル)の在庫と突き合わせる作業です。決算のためだけでなく、欠品・過剰在庫・誤出荷の原因を見つける機会でもあります。
- 多品種・小口の卸の倉庫で棚卸が丸一日かかる原因の多くは、数える作業そのものではなく「探す」「迷う」「数え直す」時間です。ロケーション整理、止め伝票(棚卸中の入出荷を止めるルール)、ペア分担、カウント表を前日までにそろえれば、当日の作業は大きく減ります。私たちの試算では、前提しだいで「丸一日」を「半日」程度まで縮められます。
- 数え終わったあとに残る差異(帳簿在庫と実在庫のズレ)の原因探しは、生成AIが得意な作業です。棚卸結果と入出荷記録のCSVを渡せば、「入力漏れ」「ケースとバラの単位違い」「返品の未処理」などの原因候補を一覧にしてくれます。最終判断は人がします。
※本記事は2026年10月30日時点の公開情報をもとにしています。
こんにちは。AI顧問の山田魁です。
「棚卸の日は、倉庫の全員と事務所の応援も入れて朝から夜まで。それでも数字が合わない」。地方の卸の倉庫で、毎年のように聞く声です。年に1回か2回の行事なので、手順が文書になっておらず、ベテランの記憶で回っていることも少なくありません。
この記事では、卸の倉庫の棚卸を「丸一日から半日へ」近づけるための段取りと、差異の原因分析に生成AIを使う方法を、現場目線でまとめます。
棚卸の目的とやり方、税務上の扱い
棚卸とは何か
棚卸(たなおろし)は、ある時点の在庫の数量を実際に数え(実地棚卸)、帳簿上の在庫(帳簿棚卸)と比べて、ズレを確認・修正する作業です。
- 帳簿在庫:販売管理システムやエクセルの上で「あるはず」の在庫
- 実在庫:倉庫に実際にある在庫
- 棚卸差異:帳簿在庫と実在庫の差。「棚差(たなさ)」とも言います
決算で在庫の金額を確定させる目的と、日々の在庫管理の精度を保つ目的の、2つがあります。卸にとっては後者も大切です。帳簿の在庫がずれていると、受注時の在庫引当が狂い、欠品や過剰発注につながります。
一斉棚卸と循環棚卸
棚卸のやり方には、大きく2つあります。
| 一斉棚卸 | 循環棚卸 | |
|---|---|---|
| やり方 | 倉庫の全在庫を、決まった日に一度に数える | 区画や商品群を分け、毎日・毎週少しずつ数える |
| 入出荷 | 原則として止める | 止めずに、対象の区画だけ一時的に止める |
| 向いている場面 | 決算時、在庫の総量を確定させたいとき | 動きの速い商品、差異が出やすい商品の精度維持 |
| 弱み | 人手と時間が集中する。出荷を止める日が必要 | ルールと記録を続ける仕組みがないと、続かない |
多くの卸では、決算期末に一斉棚卸を行い、それ以外の時期は「気になったときに数える」程度にとどまっています。おすすめは、循環棚卸で日ごろから差異をつぶしておき、一斉棚卸の当日を「確認作業」に近づけることです。
循環棚卸の対象は、すべての商品を同じ頻度にする必要はありません。出荷頻度の高い商品、単価の高い商品、過去に差異が出た商品を優先します。
会計・税務上の棚卸資産の扱い
税務の話は、経理や顧問税理士と確認する前提で、骨格だけ押さえておきます。
棚卸資産の範囲:法人税法施行令第10条では、棚卸資産として「商品又は製品」「半製品」「仕掛品」「主要原材料」「補助原材料」「消耗品で貯蔵中のもの」などが挙げられています(e-Gov法令検索 法人税法施行令)。卸の場合、中心は「商品」です。
評価方法:期末の在庫を金額にするときの評価方法は、法人が選んで税務署に届け出ます。国税庁の「棚卸資産の評価方法の届出書」の記載要領には、原価法として個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6つと、それぞれを基礎とする低価法が挙げられています(国税庁 棚卸資産の評価方法の届出書の記載要領等)。
届け出なかった場合:評価方法を選ばなかった場合は、最終仕入原価法(期末に最も近い仕入れの単価で評価する方法)による原価法になります(法人税法施行令第31条)。
届出と変更の時期:普通法人を設立した場合、届出は設立第1期の確定申告書の提出期限までです(国税庁 C1-25 棚卸資産の評価方法の届出)。評価方法を変えたいときは、新しい方法を使う事業年度が始まる日の前日までに申請書を出し、税務署長の承認を受ける必要があります(法人税法施行令第30条)。
現場として大事なのは、どの評価方法でも「数量」が正しくなければ金額も正しくならないという点です。倉庫の責任は、正しい数量を出すことにあります。
棚卸表の保存:国税庁は、法人が保存すべき「書類」の例として棚卸表を挙げています。保存期間は原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間、青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間です(国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間)。カウント表を集計して捨てるのではなく、集計後の棚卸表と一緒にどこに何年置くかを、経理と決めておきます。
多品種・小口の卸で棚卸が長引く理由
多品種・小口だから「探す時間」が長い
日用品・紙・業務用品・食品の卸では、取扱品目が数千から1万を超えることも珍しくありません。1品目あたりの数量は少なくても、品目数が多いぶん、棚の前で「これはどの商品か」「どこまでが同じ商品か」を判断する時間が積み上がります。
よくあるのは、次のような状況です。
- 同じ商品が、通常の棚と、上段の保管棚と、通路の仮置きの3か所に分かれている
- ロケーション(棚番地)が決まっていない、またはシステム上の番地と実際の置き場所が違う
- 似た品番(色違い・サイズ違い・入数違い)が隣り合っている
ケースとバラが混在する
卸の在庫は、ケース(箱)単位とバラ(1個)単位が混ざります。「12入りのケースが3つと、開封済みのケースにバラが5個」を、帳簿の単位に合わせて「41個」と書くのか「3ケース5個」と書くのか。数える人によって書き方が違うと、差異の原因になります。入数(1ケースに入っている個数)がメーカーの仕様変更で変わっていた、というケースもあります。
返品・預かり品・横持ち中の在庫
卸の倉庫には、「自社の在庫だが今は売れない」「そもそも自社の在庫ではない」ものが混ざっています。
- 返品:得意先から戻ってきたが、検品・計上がまだのもの
- 預かり品:得意先や仕入先から預かっているもの。自社の在庫ではありません
- 横持ち中:倉庫間・拠点間、または物流子会社との間で移動中のもの
- 出荷待ち:伝票は切れているが、まだ倉庫を出ていないもの
これらを置き場所で分けず、カウント表にも区分がないと、数えた人が自分の判断で入れたり外したりします。結果として、毎年同じような差異が出ます。
外部に預けている在庫は「残高の照会」で押さえる
反対に、自社の在庫なのに自社の倉庫にないものもあります。営業倉庫に保管を頼んでいる在庫、繁忙期だけ借りている外部倉庫の在庫、加工や詰め合わせのために外注先へ出している商品などです。これらは自社の棚卸では数えられないので、抜けたままになりがちです。
- 預け先ごとに、品番・数量の一覧を、棚卸日の時点で出してもらうよう事前に依頼する
- 預け先の一覧と自社の帳簿を突き合わせ、合わない品目は預け先との入出庫の記録で確かめる
- 金額や数量の大きい預け先は、可能であれば立ち会って現物を確認する
預け先の一覧は、届くまでに日数がかかることがあります。棚卸の日程を決めた時点で、預け先にも日付と様式を伝えておくと、決算の締めに間に合わせやすくなります。
季節品と官公庁向けの決算期
紙・事務用品の卸では、官公庁や学校向けの出荷が年度末に集中します。食品や日用品でも、お中元・お歳暮、夏物・冬物などの季節品があります。季節品は、シーズン前に大量に入り、シーズン後に残りが返品や処分に回るため、棚卸の時期と重なると数える量が一気に増えます。
決算棚卸の日を、季節品の山や官公庁の年度末出荷と重ならないように調整できるかどうかも、確認しておきたい点です。決算期そのものは簡単に変えられませんが、季節品だけ事前に循環棚卸で数えておく、という手は打てます。
物流子会社がある場合
物流を子会社に任せている卸では、「在庫の帳簿は親会社、数えるのは子会社」という分担になっていることがあります。この場合、差異が出たときに、どちらが原因を調べるのかが決まっていないと、毎年うやむやになります。棚卸の段取りと同じくらい、差異の調査を誰がいつまでにやるかを決めておくことが大切です。
丸一日を半日にする手順
前日までの準備(ここで半分が決まる)
- ロケーション整理:1商品1か所を原則に、分散している在庫を寄せます。寄せきれないものは、カウント表に「2か所目」として番地を書いておきます。通路の仮置きは、前日までにゼロにします。
- 区分の置き場所を分ける:返品・預かり品・出荷待ち・不良品は、それぞれ札を付けて別の場所に集めます。数えるかどうか、どの欄に書くかを決めておきます。
- 止め伝票のルールを決める:何時以降の入荷・出荷・返品を棚卸の後に計上するかを決め、営業・事務・倉庫に周知します。FAXで届いた当日の注文をどう扱うかも決めておきます。
- カウント表を作る:ロケーション順(歩く順)に並べ、商品名・品番・入数・単位(ケース/バラ)の欄を分けます。帳簿の数量は、先入観を避けるために載せないのが基本です。
- ペア分担を決める:1人が数え、1人が記入する2人1組にします。区画ごとにペアを割り当て、ベテランと応援の人を組み合わせます。
- 事前に数えられるものは数えておく:動きのない商品や、封をしたままのケース在庫は、前日までに数えて札を貼っておき、当日は札の確認だけにします。
当日の段取り
- 朝礼で10分だけ説明:単位の書き方、区分の扱い、迷ったときに聞く相手を伝えます。
- 区画ごとに数え、終わった区画は札で「済」を示す:二重カウントと数え漏れを防ぎます。
- その場で入力:カウント表を回収してから事務所でまとめて入力すると、時間も転記ミスも増えます。タブレットや共有のエクセルに、区画が終わるごとに入力していきます。
- 差異が大きい品目だけ再カウント:全部を数え直すのではなく、差異が一定以上(例:金額で○円以上、または数量で○%以上)の品目だけを、別のペアが数え直します。
数え方は「リスト」「札」「ハンディ」を使い分ける
数えた結果の記録の仕方には、大きく3つあります。どれか1つに決める必要はなく、置き場所によって使い分けるのが現実的です。
| 方式 | やり方 | 向いている置き場所 | 卸での注意点 |
|---|---|---|---|
| リスト方式 | ロケーション順に並べたカウント表に数を書く | 棚番地が決まっている通常の棚 | 表に載っていない商品(置き場所違い)を書く欄を下に設ける |
| 札(タグ)方式 | 通し番号の札を在庫に付け、札に品番と数を書いて回収する | パレット置き、通路の仮置き、上段の保管在庫 | 札の番号に抜けがないかで、数え漏れを確認できる |
| ハンディ方式 | バーコードを読み取り、数を端末に入れる | 品目が多く、バーコードが付いた商品の棚 | ケースとバラでコードが違う(下記) |
ハンディ方式で気をつけたいのが、ケースとバラのコードの違いです。GS1 Japanによれば、同じ商品を複数まとめたケースなどの集合包装には、単品のJANコード(GTIN-13)とは別の14桁の「集合包装用商品コード(GTIN-14)」を設定し、先頭の1桁(インジケータ)で入数や荷姿を区別します(GS1 Japan「GTINとは」)。自社の商品マスタにケースのコードと入数が登録されていないと、ケースを読んでも「不明な商品」になったり、1個として数えられたりします。ハンディを使う前に、よく動く商品からマスタのケースコードと入数を確認しておきます。
数えながら「通常の値段で売れない在庫」を分けておく
棚卸は、すべての在庫を一度は目で見る機会です。数と一緒に、賞味期限切れ・期限間近、外箱の破損、旧パッケージ、季節品の売れ残りなどを見つけたら、カウント表の備考欄に印を付け、写真を撮っておきます。
これは税務にも関わります。法人税法施行令第68条では、棚卸資産の評価損を計上できる事実として、災害による著しい損傷、著しい陳腐化、それらに準ずる特別の事実を挙げています(e-Gov法令検索 法人税法施行令)。国税庁の法人税基本通達では、陳腐化の例として「季節商品で売れ残ったもの」で今後通常の価額で販売できないことが明らかな場合などを、準ずる事実の例として「破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等」で通常の方法で販売できなくなった場合を挙げています。一方で、時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更などで下がっただけでは該当しないとしています(国税庁 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損)。
評価損を計上するかどうかは、経理と顧問税理士が判断することです。倉庫ができるのは、どの商品が、いつ、どんな状態だったかの記録を残しておくことです。棚卸の当日に写真と数量を残しておけば、後から確認を求められたときの材料になります。
ロケーションの付け方やピッキング動線の整理は、棚卸だけでなく日々の出荷にも効きます。詳しくはピッキングとは|方式の違いと誤出荷を減らす方法でも書いています。
「丸一日→半日」の試算
前提をはっきりさせたうえでの、私たちの試算です。実際の効果は、倉庫の広さ、品目数、レイアウト、人員で変わります。
前提(架空のモデル倉庫):取扱品目3,000、倉庫1拠点、棚卸に10名(倉庫6名+事務所の応援4名)。改善前は、ロケーションが一部未整理、カウント表は品番順、記入は1人作業、全品目を回収後に事務所で入力。
| 工程 | 改善前(10名) | 改善後(10名) | 主な違い |
|---|---|---|---|
| 当日の説明・準備 | 1時間 | 0.5時間 | ルールを前日までに文書化 |
| カウント | 4.5時間 | 2.5時間 | ロケーション順の表、仮置きゼロ、封したケースは事前カウント |
| 入力・集計 | 1.5時間 | 0.5時間 | 区画ごとにその場で入力 |
| 差異の再カウント・調査 | 1.5時間 | 0.5時間 | 差異の大きい品目だけ再カウント。原因調査は後日 |
| 当日の合計 | 約8.5時間 | 約4時間 |
※試算。改善後は、前日までの準備に倉庫2名×半日程度が別にかかる前提です。当日の時間は半分程度になりますが、準備の時間を含めた総工数は、それほど大きくは減りません。効くのは「出荷を止める時間」と「応援の人を拘束する時間」が短くなることです。
棚卸でよくある5つの失敗と対策
失敗1:当日にロケーション整理を始めてしまう 数えながら在庫を寄せると、数えた後の商品が動き、二重カウントや数え漏れが起きます。 → 整理は前日まで。当日は「動かさない」を原則にします。
失敗2:ケースとバラの書き方がばらばら 「3」と書いてあっても、3ケースなのか3個なのか、後から誰にも分かりません。 → カウント表にケース欄とバラ欄を分け、入数を印字します。換算は表計算で行います。
失敗3:止め伝票の時刻があいまい 棚卸の前に出荷した分が、棚卸の後に計上されると、その分がそのまま差異になります。 → 「何時の伝票まで棚卸前」「何時以降は棚卸後」を決め、営業・事務・倉庫に紙で配ります。
失敗4:差異の原因を調べずに、帳簿を実数に合わせて終わる 数量を合わせること自体は必要です。しかし原因が分からないままだと、翌年も同じ差異が出ます。 → 差異の大きい品目について、入出荷記録をさかのぼって原因を分類します。ここは次の章で紹介する生成AIが使えます。
失敗5:手順がベテランの頭の中にしかない 年1回の作業は、担当者が替わると一から作り直しになります。 → 今年の段取りを、そのまま手順書にして残します。作り方は倉庫の作業手順書の作り方|生成AIで写真から30分で作るで紹介しています。





